軟部組織肉腫(Soft Tissue Sarcoma:STS)
軟部組織肉腫(STS)は、体の軟部組織(筋肉、脂肪、線維組織、神経組織、血管など)から発生する腫瘍の総称です。犬では比較的よくみられる腫瘍の一つで、猫ではワクチン部位関連肉腫(FISS)が知られています。外見上はゆっくりと大きくなる“しこり”として気づかれることが多いものの、周囲の組織へ浸潤する性質を持つため、治療には注意と計画性が必要です。
【特徴】
犬では中高齢での発生が多く、発生部位は四肢、体幹部、首、背中、腹部などさまざまです。腫瘍は一般的に“被膜に包まれているように見えます”が、実際には周囲の正常組織へ腫瘍細胞が浸潤していることが多いのが特徴です。そのため、外見上は境界明瞭な腫瘤でも、ただ切り取るだけでは局所再発のリスクが高く、治療計画において最も重要な点となります。また、腫瘍の悪性度はグレード(1〜3)で分類され、高グレードほど増殖が早く、転移のリスクが高くなります。
【症状】
多くの軟部組織肉腫は痛みなく、ゆっくりと大きくなる腫瘤として発見されます。
ただし、関節周囲や神経に近い場所に発生した場合、跛行や痛みを引き起こすことがあります。腫瘍がかなり大きくなってから受診されるケースも多いため、日頃からスキンシップの際に体表を触って早期発見を意識することが大切です。
【診断】
① 細胞診
最初に行われることが多い検査ですが、軟部組織肉腫は粘液成分が多く、細胞がとれにくいことがあります。
② 組織生検(コア生検・切開生検)
腫瘍の確定診断とグレード評価のために重要な検査です。組織をしっかり採取することで、どのタイプの肉腫か、悪性度はどの程度かを評価できます。
③ 画像検査
・X線検査:肺転移の有無を確認
・超音波検査:腹腔内への転移、周囲構造への影響を確認
・CT/MRI:外科手術の計画に極めて有用。特に四肢・体幹部の浸潤範囲や切除ラインの決定に役立ちます。
腫瘍の“どこまでが病変か”を正確に把握することが、成功率の高い手術につながります。
【治療】
治療の第一選択は外科手術です。可能な限り大きく、広い範囲を切除することが再発防止の鍵となります。
① 外科手術(広範囲切除)
切除マージンが不十分だと、再発率は大きく上昇します。腫瘍の局所浸潤は一見わからないため、計画性のある切除が必要です。
② 放射線治療
・手術で取りきれなかった場合
・当初から広範囲切除が困難な部位
・再発腫瘍
などで補助療法として行われます。局所制御率を大きく改善する効果があります。
③ 化学療法
軟部組織肉腫は抗がん剤への感受性が高くありません。
ただし、高グレード(Grade 3)や転移が疑われる場合は延命効果は限定的ですが、進行を抑えることが期待できます。
【予後】
予後は以下で大きく左右されます。
・グレード(悪性度)
- Grade 1:低グレード → 転移率低く、手術で治るケースが多い
- Grade 2:中間 → 再発リスクあり
- Grade 3:高グレード → 転移率が高く、厳しい経過になることも
・外科切除の完全性
もっとも重要な予後因子のひとつです。
切除縁が“腫瘍陰性”である場合、再発率は非常に低くなります。
・腫瘍の大きさと発生部位
深部、四肢末端、胸壁・腹壁などは完全切除が難しい場合があり、再発リスクが高くなります。
【飼い主さまへのメッセージ】
軟部組織肉腫は「ゆっくり大きくなるから大丈夫」と思われがちですが、実は広がり方に特徴がある厄介な腫瘍です。外見よりも深く広がり、切除が不十分だと数ヶ月〜数年後に再発することがあります。
ただし、早期に発見し、適切な検査と治療計画を立てることで、完治または長期的な制御が十分可能な腫瘍でもあります。
体に触ったときに“いつもと違うしこり”を感じたら、早めに動物病院へご相談ください。だん動物病院でも、腫瘤の評価から治療計画、必要に応じた専門施設への紹介まで、飼い主さまと動物に寄り添いながらサポートいたします。

